2013年10月29日火曜日

9.ダフニスとクロエー

ロンゴス著 松平千秋訳 岩波文庫

9冊目はダフニスとクロエーです
ギリシアで純粋な恋愛小説書けるの?と思いながら読みました~



まさしく恋愛小説です!
そう説明に書いてあるのですが、それでもうまくイメージが浮かばず、これまでのギリシア作品のように純粋さより残酷さが目立つグロテスクなものがくるのかとびくびくしていましたが、純粋な恋愛小説でした!!!びっくりです。

この作品はこれまでの紀元前作品よりも時代が下っているためか、どろどろした王族も血に飢えた英雄も非道の神々も出てこず、あくまで人間、しかも一島完結というこじんまりとした物語設定の作品になっています。それなのに文学作品として残るなんてどうしてだろう、と疑問がわくと思います。これには原文が残ったという貴重性や、古代の修辞学的文献としての価値もあると思いますが、とにかくストーリーが非常にロマンチック、もうキラッキラでかなわない!という点も世人に見過ごせない感情をうえつけているのでしょう。かといってやりすぎなケバケバしいものではないです。優しくて柔らかい目線です。“牧歌的”という言葉のイメージが、実際にはどういう世界でどんな景色をしているのか、この本を読めばわかります。

「(略)四巻の物語を書きあげた。一つにはエロースとニンフたち、それにパーンへの捧げ物とするため、また一つにはこれが世の人すべてに楽しい座右の書となって、わずらう人を癒し、悩む人を慰め、すでに恋をしたことのある人にはその思い出をよみがえらせ、まだ恋を知らぬ人にはその手引きともなれかしとの願いからでもあった。この世に美しいものがあるかぎり、眼がものを見るかぎり、エロースの手を逃れた者はかつてなく、これからもありえぬからである。」。。。この物語のねらいはまさに冒頭のこの言葉に尽きます。ばっちりねらい通りのおはなしになっています。しかし恋についてこれを手引き書にしたら、みんなロマンチックになりすぎて、逆に成立しないんじゃないだろうかと心配するぐらいです。

牧歌的な雰囲気を湛えていますが、童話のように単純ではなく、修辞も満載なので、大人でも十分読む味わいがあります。それに童話や民話にありがちな訓戒的なものは一切ないのが良いと思いました。存分に世界にひたっても冷や水を浴びせられる心配はないです。若い二人には困難や危機もありますが、極悪人がいないのでひどすぎることにはなりません。

大人になるということを、ここまでゆるやかに書いてある作品は少ないかもしれません。ゲーテ絶賛、日本でも様々な人が影響を受けているということですので、純粋な文学青年には特にたまらない世界かもしれません。少女よりも、どちらかといえば少年向けのように思います。切ない思いを抱えている人で、およそ叶わないものであるなら、異世界に夢をみるのもいいですよね。これを読んだあとは、レスボス島へ行って、エーゲ海の夕陽を見たい!と思いました。でもこれを読んでいる間に流れていたのは、森山直太郎さんのさくら(独唱)の「とわにさんざめく光をあびて~♪」というフレーズでした。純日本です^^;こんな風に、読んだ人それぞれの郷愁が呼び起されますよ~

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